つとむューニッキ(はてなダイアリー版)

つとむューのニッキです。

文章塾

秘密の下駄箱通信

「今朝は入っているかな…」 最近僕は、下駄箱を開けるのが楽しみだ。 (あ、あった!) 誰にも見つからないように白い封筒を取り出す。カセットテープが入ったマリコからの手紙だ。 三ヶ月ほど前、僕はマリコからラジオ講座に誘われた。ラジオで放送されてい…

ラジオ講座

「ねえねえ知ってる?」 廊下で僕を見つけたマリコが走ってやって来る。 「M先輩ね、W大学受かったんだって!」 「えっ、すごいじゃん」 最近、上級生の受験結果が校内で飛び交っている。そのことは同時に、次は自分達の番であることを告げていた。 「受験…

ハロー、見てるよ!

「ねぇパパ、人は死んだらどこに行っちゃうの?」 春香が突然、そんなことを聞いてきた。 「えっ?」 俺は自分の耳を疑う。春香は、俺の病気のことを知っているのだろうか。 「風になってどこかに行っちゃうの?」 春香の無邪気な笑顔は、そんな疑念を吹き飛…

景気刺激金

「ねえ、お客さん、何かいいことあったの?」 ホステスの香織が、ウイスキーを割りながら誠の顔を覗き込む。 「あれだよ、あれ。景気刺激金」 「国民一人一人に配られるっていう、あれ?」 「そうそう。俺んトコさ、子供が三人いるんだよ。だから八万ももら…

日の出パニック

―2008年12月25日、中国上海郊外 病床の予言者クーは、突然起き上がり目をかっと見開いた。 「日の出の頃、日の出国の使者が闇をもたらす。我が民はダイヤを失うだろう」 この予言はたちまち中国中に広まった。というのも、クーは大地震やロパク問題などを的…

曲がった指輪

「あれ?無い、無い…」 ベッドの脇で妻がうろたえる。何かを無くしたようだ。 「どうしたのさ?」 「指輪が…」 「ま、まさか結婚指輪?!」 「寝てる間に外しちゃってたみたい、ははは…」 いつも妻に怒られてばかりのオレだけど、指輪だけは例外だ。 なぜな…

電車ブログ

「あっ…」 パソコンに映る写真に、僕は言葉を失った。 いい年をした大人が、電車のシートの上に乗っている。 子供のようなその姿は、紛れも無く自分だった。 「やっと見つけた…」 恥ずかしさより喜びに満たされたのは、この写真を見つけるために散々苦労した…

幸子

素人でも手軽に文章が書ける方法はないかと、ネットで検索を試みた。 いろいろなページが表示される中で、目に止まったのはこんなサイトだった。 『私の文章作法』 踊る文章塾 by月影ネット これだ!私が探していたものは! 読んでみると、どうやらプロでは…

フェードアウト

「ねえ、舞台の照明をだんだん明るくするのってどうやるの?」 「その足元のハンドルを右に回すんだよ」 「こうね!」 ここは昼休みの体育館。僕はマリコの特訓につき合わされている。 「あっ、明るくなった。おもしろーい」 「なんだ、そんなことも知らなか…

スポットライト

「なに一番後ろに座ってんのよ」 不意に声を掛けられ驚いて振り向く。マリコだった。 「そっちこそ皆の所に居なくていいのかよ」 「別にいいでしょ、隣いい?」 マリコは返事も聞かずに僕の隣に座った。 ここは県民ホールの観客席。舞台では、先ほどまで高校…

クラクションは僕の歌

チクショー! 心の中で叫びながら、夕暮れの坂道を自転車で駆け下りる。涙も本当に出てきやがった。忘れ物を取りに、部室になんか戻らなければよかったんだ。そうすれば、あんなところを見ずに済んだのに… 部活が終わったのはちょうど三十分前。別れ際、明日…

五回の代償

「五回?」 雄介は授業中ずっと考えていた。 京香が数学の教科書に書いていた回数を。 俺って五回も居眠りしてたっけ? 一つ前の時間は数学だった。 サイン、コサイン、タンジェント… 三角比の呪文が心の中にも梅雨の曇天をもたらす。 飛行船に乗ればふわふ…

Fの魔法

「Fって何だ…?」 雄介は授業中、ずっと考えていた。 京香が古文の教科書に書いていた記号の意味を。 フール?ファール?まさか腑抜けのF? 一つ前の時間は古文だった。 け、け、ける、ける、けれ、けよ… 五月の陽気に、古文の呪文がすうっと溶けていく。 涅…

死音組曲

私の名前は、ネチャード・イレラレン 華麗なる天才ピアニスト 世界中を旅して、春を呼ぶ女性を探している 最近思うことがある。 私のこの指裁きには、死を司る魔力が宿っているのではないかと。 なぜなら、夜のレッスンに訪れるご婦人達の口から発せられる調…

チ音記号

「ねえねえ、知ってる?」 また姉貴のいつものが始まった… 「音楽でさ、ヘ音記号とかト音記号ってあるじゃん」 音痴のくせに今度は音楽ネタ…? 「あの“ヘ”とか“ト”ってね、実はイロハだったのよ!」 それって小学校で習ったような… 「“ヘオン”とか“トーン”っ…

ネチャード・イレラレン

私の名前は、ネチャード・イレラレン 華麗なる天才ピアニスト 世界中を旅して、お目当ての女性を探している 「きゃぁーっ、ネチャード!!」 新年の演奏会が終わると、ご婦人達の黄色い声が出口を覆う。どうやら、私の甘いマスクと、魅惑的な演奏が彼女達を…

レストラン青山

「あれマダムじゃない?レストラン青山の」 満員バスの中で、よう子が僕の脇腹をつつく。 「似てるけど…、こんなバスに乗るか?高級フランス料理店のマダムが」 バスはサッカースタジアムに向かう人達で一杯だ。 「でも、車で来た人って全員このバスに乗るん…

ダイコン

「ダイコンなんて、だいっキライ!」 ブリ大根を前にして息子が叫んだ、らしい。 そんな話を妻から聞いて、ふと昔の自分を思い出す。 何を隠そう、自分もダイコンが大嫌いだった。 だいこんが食べられるようになったのは、一人暮らしを始めてから。 通ってい…

コーヒーハウスにて

「ええっ!今から行くの?」 「ほら学園祭、まだやってるし」 「やだよ、無茶苦茶だよ先輩。じゃあねバイバイ(ガチャ)」 「おい、よう子!よう子…」 プーーー 最悪だ。 席に戻ると、飲みかけのコーヒーカップがかちゃりと音をたてる。黒の波紋が、俺を嘲笑…

スメルクラブ

「お前、スメルクラブで働いてるんだって?」 浩史は酒をつぎながら、心理学専攻の旧友、健に切り出した。 「よく知ってるな」 「それでな、ちょいと教えてほしいことがあるんだが…」 ”素敵な匂いの空間を提供します” そんな宣伝に誘われて、浩史がスメルク…

崩壊

カシャッ 駅からの夜道を急ぐ涼木理子は、足を止めて耳を澄ました。街灯に群がる虫の羽音がパタパタと住宅街に響く。 確かに変な音がしたのに… 額にじっと汗が浮かぶ。蒸し暑い梅雨の終わりは、理子の一番嫌いな季節。早くマンションに帰って、冷房の効いた…

すみれ座を探して

「ねえ、すみれ座って知ってる?」 幼馴染の菜々が、真剣な面持ちで聞いてきた。 「なんだそれ?場末の映画館?」 「はぁ?星見てんだから星座に決まってんでしょ!」 「ゴメンゴメン、僕が悪かったよ。ちゃんと聞くからさぁ…」 いつもの癖でつい菜々をから…

ロンリーハート

「えっ、FM宝探し?何それ?」 受話器越しのマリコの声が変わった。何度映画に誘っても「忙しい」の一点張りだったのに、今度はうまくいきそうだ。 「FMラジオを聞きながら宝探しをやるイベントがあるんだよ」 「それって、おもしろそうね」 こうして僕…

英雄

午前11時37分。飛行機の中でこれを書いている。 20分ほど前に、この飛行機はハイジャックされた。 犯人は3人くらい。銃を持っている。 乗客は下を向かされているので、それ以上は分からない。 銃声と悲鳴が聞こえたから、犠牲者もいるだろう。 ハイジ…

九十九島放送局

「ねえ、社長さん、私がこんなことを言うのもなんだけど、毎晩飲みに来て大丈夫?」 ナンバーワンホステスの香織が、ウイスキーを割りながら武の顔を覗き込む。 「平気平気、オレ九十九島放送局の社長だから」 九十九島列島。大小三十五の島が連なるこの地域…

親の都合

「親の都合で、子供を振り回すんじゃない!」 久しぶりにオヤジに怒鳴られた。 孫との団らんを、オレに邪魔されたのが不満らしい。 オヤジは毎朝、孫とのテレビを楽しみにしている。 畳にちょこんと座る姿は、後ろから見てもかわいいものだ。 それをオレが無…

雨の高原にて

カーテンを開けると外は土砂降りだった。 せっかくの高原旅行というのに残念だ。 湖でのボート乗り、滝までの森林浴。 想い描いていた楽しみが、すべてパーになった。 雨でも楽しめる屋内施設は、周辺には2ヶ所しかない。 「おもちゃ王国と温泉、どっちがい…

酔っぱらい

「おい!オレの酒が飲めねえってぇの?」 よう子が酔っぱらってからんでくる。 だからサークルで飲むのは嫌なんだよ。 これでは、せっかくの宴も台無しだ。 よう子は、大学のサークルの後輩である。 男勝りの言動と底抜けの明るさで、周りにはいつも人が集ま…

チビ地蔵の恋

「絶、対、上を見ちゃダメだからねっ!」 念を押しながらマリコが梯子を登っていく。ここは高校の体育館の舞台袖。トン、トン、トンと響く振動は、上を見てみたい衝動を駆り立てる。 「登っていいよ!」 我に返った僕は、発砲スチロール製の雪が入った袋を担…

お父さんのススリ泣き

隣の部屋から、お父さんのススリ泣く声が聞こえる。寝る前に、ひどいことを言ってしまった・・・。だって、高校受験が近いというのに、風呂上りのパンツ姿で「週末、温泉でも行かないか」なんて、のんきなことを言うんだもん。私、頭に来ちゃった。だからつ…