この街に住んでいたら
――もし、この街に住んでいたら?
車窓を眺めていると、オレはついそんなことを連想してしまう。
仕事はどこに通うのだろう?
いつもの買い物はあのスーパーかな? という具合に。
そして子供達にも、同じノリで訊いてしまうのだ。
「もしこの街に住んでいたら、あの学校に通うんじゃないのか?」
しかし、子供達の反応は冷ややか。
「パパ、また同じこと言ってる・・・」と、車窓から目を反らす。
それもそのはず、子供達はそんな経験をしたことがない。
見知らぬ街で新たな生活を始める、という体験を。
引っ越しという魔物が、街の見方を変える。
そう言うオレも、まだ九回しか経験したことはないが。
時には、懐かしい街に戻ってくることもある。
邪魔だと憎んでいた信号を、保育園児の娘の手を引いて渡ることになるとは。
裏道として飛ばしていた旧道を、息子達が通学に使うことになるとは。
過去の悪事を後悔する度に、見知らぬ場所でも悪いことはできぬと思うのだ。
一人旅の心細さも、子供達はまだ知らない。
車窓の景色が薄暗くなると、たちまち家が恋しくなる。
立ち上る湯気を見ると、家では何を食べているのだろうと思いを巡らす。
街が闇に包まれると、窓の灯りに温もりを求めてしまう。
「オヤジの言っていたことが、やっと分かったよ」
そうやって、子供達と車窓を眺める日は何年後だろうか?
子供達も引っ越しを体験していることだろう。
その時オレは、どんな街に住んでいるのか楽しみだ。
はてなダイアリー 今週のお題「僕の住む街・私の地元」