つとむューニッキ(はてなダイアリー版)

つとむューのニッキです。

草の香り

とても好きな草の香りがある。
セロリの香り。
あれは最高だ。密かに野菜の王様と呼んでいるくらい。
えっ、そんな嗜好は変だって?
いやいや、セロリの香りが好きな人は、結構いるんじゃないのだろうか。


そんなオレが中学生の時の、草の香りにまつわる話。
掃除の時間、友人が校庭の隅にしゃがんで何かをやっていた。
見ると、彼の周り一面には草が生えている。
「ほら、来て来て!」
誘われて近付くと、彼はその草を摘んで鼻の前にかざして目を細めた。
「うーん、最高!」
その仕草はまるで、この世で一番香しい草を愛でるよう。
「そんなにいい香りなのか?」
オレは試しにその草を一掴み摘んで、彼に倣って香りを一気に吸い込んだ。


「うげぇっ! なんだこれ!?」
なんとも嫌な気持ちにさせる変な匂い。
「やーい、ひっかかった!」
友人は満面の笑みでオレを見る。
ドクダミだよ、それ。知らないの?」
知ってたら、こんな超至近距離で嗅がないって。
それよりも、彼の演技にまんまと騙された未熟な自分がとても悔しい。
そうだ、いつかオレもこの手を使ってみよう。
オレは将来を夢見て、笑って彼を許したのであった。


あれから三十年。
待ちに待ったチャンスがやってきた。
「ほら、この草、いい香りがするんだよ」
オレは家の裏に生えているドクダミを鼻に寄せ、子供達の前で目を細める。
そう、いつかの友人のように。
「パパ、それ知ってるよ。ドクダミだよ」
なんだよ、知ってんのかよ。
「それ無茶苦茶臭いんだよ」
ああ、そうかよ。オレは中学生になるまでそのことを知らなかったんだよ。
息子達の成長を祝うべきなのに、オレは自分の演技不足を呪う。
まあ、孫ができたら再挑戦してみるか。
オレの夢はまだまだ続く。




はてなダイアリー 今週のお題 特別編「だまされたけど、許せてしまった嘘を教えてください」