ロンリーハート
「えっ、FM宝探し?何それ?」
受話器越しのマリコの声が変わった。何度映画に誘っても「忙しい」の一点張りだったのに、今度はうまくいきそうだ。
「FMラジオを聞きながら宝探しをやるイベントがあるんだよ」
「それって、おもしろそうね」
こうして僕は、マリコとラジオのイヤホンを分け合って日曜の街を歩いている。初夏の風に吹かれた彼女の髪が、イヤホンを押さえる腕に触れてくすぐったい。
「あっ、聞こえた!」
ミニFM局から電波が届くたびにマリコがはしゃぐ。地図に示された場所に近づくと、ラジオから問題が聞こえてくるという仕組みだ。
「なになに、これから流れる曲の題名を答えよだって?」
力強く響くベース、特徴のあるイントロ…。うーん、どこかで聞いたことがある…。そうだ!これはM先輩から昨日預かったテープの曲だ。
そのテープは、部活の後に突然渡された。今度の演劇に合うかどうか、音響係の僕の意見を聞きたいというのだ。「月曜に答えを聞かせてくれよ」と微笑むM先輩は、どこか楽しそうだった。
これはいいところを見せるチャンス!心の中でM先輩に感謝しながら、曲名を必死に思い出す。
「なんだったっけ、この曲の題名?聞いたことあるんだ…」
しかし、マリコの返事は唐突だった。
「M先輩にね、好きって言ったの…」
「えっ!?」
振り向いた拍子に、彼女の耳がイヤホンに引っ張られる。
「イテテ!ちょっと最後までちゃんと聞きなさいよ。曲のことよ、この曲」
「なんだぁ…」
「あれれっ、なんか妬いちゃった?」
「そんなことあるわけないだろう!」
「な、なによ、ムキにならなくたっていいじゃない。あーあ、M先輩、人気あるからなぁ…。私なんかじゃ、望み薄だよなぁ…」
ここは動揺を見せじと、僕は話を本題に戻す。
「と、ところで曲名はなんだったっけ?」
「ロンリーハート」
マリコは遠くを見ながらそう言った。
見つめる先がずっと遠くのままだったらいいのにと、僕は月曜の答えを探していた。
こころのダンス文章塾 第16回お題「恋ごころ」投稿作品 (★胸キュン賞)