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Fの魔法

tsutomyu2008-04-17


「Fって何だ…?」
雄介は授業中、ずっと考えていた。
京香が古文の教科書に書いていた記号の意味を。
フール?ファール?まさか腑抜けのF?


一つ前の時間は古文だった。
け、け、ける、ける、けれ、けよ…
五月の陽気に、古文の呪文がすうっと溶けていく。
涅槃の境地に達したところで、俗世から自分を呼ぶ声が…
はっと目を開けると、恐い顔をした先生が机の前に立っていた。
立たされながら教室の失笑を見回すと、一人だけ教科書を見ている奴がいる。
こんな時でも勉強かよ。優等生は違うぜ…
しかしそれは勘違いだった。
京香は教科書に何かを書き込むと、ニヤリとこちらを見た。


京香の席は、俺の二つ隣の窓際だ。
成績優秀、容姿は…まあまあかな。
だから今まで気に留めていなかったが、あれ以来意識してしまう。
確かあれは”F”に見えた。
また何か書かれるんじゃないかと思うと、つい彼女を見てしまう。
窓からの風を受けてサラサラとそよぐ長い髪。
セーラー服のリボン辺りのなだらかな膨らみ。
今が盛りと芽吹く若葉よりも、授業に集中する瞳が美しい。
”古文の教科書に書いてたFって何だよ?”
以前なら何でもなかった質問が、俺の口を重くする。


「な〜に〜?あんた京香に気があんの?」
ホームルームが終わると留美が後ろから小突いてきた。中学校からの腐れ縁だ。
「べ、別に…」
「そう、ならいいんだけど。ちょっと気になることを聞いたから」
「何だよ。教えろよ」
「内緒だよ。あの子達のグループって、あんたで賭けしてんのよ」
「えっ?」
「古文の時間ね、あんたが何回居眠りするかって賭けてんの」
じゃあ、Fって何だ…
「京香の観察によるとね、あんたの古文の居眠りはいつも三回だって話だよ」
三回、三回…。そっか、あれはFではなくて正の字の途中だったのか…


明日の五時間目は古文だ。
襲い来る睡魔とそれを狩る小悪魔。
全滅してしまいそうな睡魔を応援したくなるのは、魔法にかかった自分を認めたくないからだろう。




文章塾という踊り場♪ 第24回お題「制服、あるいはそれにまつわるもの」投稿作品