つとむューニッキ(はてなダイアリー版)

つとむューのニッキです。

スポットライト

「なに一番後ろに座ってんのよ」
 不意に声を掛けられ驚いて振り向く。マリコだった。
「そっちこそ皆の所に居なくていいのかよ」
「別にいいでしょ、隣いい?」
 マリコは返事も聞かずに僕の隣に座った。


 ここは県民ホールの観客席。舞台では、先ほどまで高校演劇発表会が行われていた。我が部も出場しているのだが、前日に怪我をして出れなくなった僕は、一人でこっそり見に来ていた。


「ずっとここで見てたけど、残念ながら優勝は取れそうも無いぜ。ウチらの一つ前に発表した高校がとても良かった」
「そうみたいね。楽屋からでもすごい拍手が聞こえたわ。ああ、M先輩悲しむだろうな…」
「だからここに来た、と」
「まあね」
 優勝できなければ、三年生にとって高校最後の大会となってしまう。先輩の悲しむ姿を見たくないマリコの心中もわかるが、それがここに来た理由というのも、なんとも複雑だ。
「でも準優勝は狙えると思うよ。出来は悪くなかった」
「そうだよね、がんばったもんね」


 いよいよ発表の時。優勝はやはり一つ前の高校だった。さらに準優勝も我が校ではなく、主役の女生徒がセーラー服姿で飛んだり跳ねたりと熱演した高校が獲得した。


「バカヤロー!パンツ見せれば賞を取れると思ってんじゃねーぞ。審査員もエロオヤジ!」
「おいおいマリコ
「だって、あんなパンチラ高校が準優勝じゃあ、先輩可哀想だよ…」
「ほら、みんな行っちゃうぜ」
「ねえ、しばらくここに居させて」
「居させてったって…」
 マリコを見ると、疲れたようにうつむいていた。
 そうだよ、マリコだって、準優勝の女生徒に負けないくらい精一杯役を演じた後だったんだ。それなのに、僕はといえば、M先輩とのことばかり気にしていた…
「お疲れ様。気が済んだら言ってくれよ」
「ありがとう…」
 マリコが僕を見てなくても構わない。ありのままの姿をさらけ出せる存在であればそれでいい。
 スポットライトが消えた舞台を、僕はいつまでも見つめていた。




文章塾という踊り場♪ 第27回お題「七月」投稿作品