つとむューニッキ(はてなダイアリー版)

つとむューのニッキです。

電車ブログ

tsutomyu2008-10-20


「あっ…」
パソコンに映る写真に、僕は言葉を失った。
いい年をした大人が、電車のシートの上に乗っている。
子供のようなその姿は、紛れも無く自分だった。
「やっと見つけた…」
恥ずかしさより喜びに満たされたのは、この写真を見つけるために散々苦労したからだ。


それは一ヶ月前。
電車に乗ると、その車両は僕一人きりだった。
開放的な気分に、つい車窓の景色にかじりついてしまう。
背後に迫る気配に気づかなかったのは、全くの不覚だった。


カシャリ!
驚いて振り向くと、カメラを持った女性が立っている。
ポニーテールが似合う美人だったが、美人特有の横柄な口調で
「この写真、ネットに投稿してもいいかしら?」
と言った。
「えっ?」
「大丈夫。顔は写ってないから」
いや、顔が問題ではなくて、この格好が問題なのだ。
でも、待てよ。こんな美人と知り合うチャンスも滅多に無い。
「あ、ああぁ、あ…」
僕が生返事をしていると、電車が駅に着いた。
女性は忙しそうにカメラをバッグに仕舞い、
「そう。じゃあ、よろしくね」
と電車を降りようとした。
「と、投稿、どこに?」
慌てて僕が聞くと、締まるドア越しに
”電車ブログ”
と彼女の艶やかな唇が動く。
その日から僕は”電車ブログ”を探し続けた。


電車を扱うブログなんて山ほどある。
ざっと検索しただけで、一千万件以上のサイトがヒットした。
それを一つ一つ見て回ったのだ。
しかしどのサイトも、彼女の投稿とは思えない内容だった。
一ヶ月が経ち諦めかけた時、あるサイトを見つけた。


#029-0005「電車ブログ」: 文章塾という踊り場


そして僕は、この作品の中に自分の写真を発見した。


この写真に写っているのは確かに僕だ。
ということは、この作品を投稿したのは彼女に間違いない。
作者の名前は…、えっ?、どこにも書いてない!?
つまり彼女と連絡を取るためには、この作品にコメントを書くしかないってことだ…


ドキドキしながら、僕はコメントのボタンをクリックした。




文章塾という踊り場♪ 第29回お題「忙しい」または「急ぐ」投稿作品