つとむューニッキ(はてなダイアリー版)

つとむューのニッキです。

景気刺激金

「ねえ、お客さん、何かいいことあったの?」
 ホステスの香織が、ウイスキーを割りながら誠の顔を覗き込む。
「あれだよ、あれ。景気刺激金」
「国民一人一人に配られるっていう、あれ?」
「そうそう。俺んトコさ、子供が三人いるんだよ。だから八万ももらっちゃってさ」
「それで今日は大盤振る舞いってわけね」
「まあ今日だけな。サラリーマンのちょっとした贅沢ってヤツよ」
「ご家族には何か買ってあげなくていいのかしら?」
「家内にはコレ。ちょいと奮発したから喜んでくれるだろ」
 そう言って誠は、小さな包みを鞄から出して香織に見せた。
「お子さんには?」
「子供はわかってねえだろ、金貰ったってこと」
「あら、悪い人」
 香織は誠のタバコに火をつける。
「大体、景気刺激金なんて難しい名前を付けるのが悪いんだよ。まあ選挙権を持ってるのは大人だし。ぱっと使うのが目的なんだから、ぱっと行こうぜ、ぱっと…」


♪シゲキン、シゲキン、戦えシゲキン
 テレビのCMで誠は目を覚ます。
「あ”〜、あったま痛ぇ…」
 二日酔いの頭を押さえながら、誠はのそのそとコタツから這い出る。昼食の後うとうとして、そのまま寝込んでしまった。せっかくの土曜の空もすでに夕焼け色。CMではシゲキンと呼ばれる戦隊ヒーローが怪人と戦っている。
「このCM、子供達のお気に入りなのよ」
 妻がお茶を持ってきてくれた。
♪ケーキ、ケーキ、ケーキを守れ
「うへっ、ケーキなんて見たくもない…」 そう言いながらすすったお茶を、誠は次のフレーズで吹き出した。
♪日本のケーキを救ってくれ
「ププッ!な、なんだ、このCM…」
「あら、知らなかったの?景気刺激金の政府CMよ」
「見たことねえぞ」
「そりゃそうよ、子供向けだから深夜にはやってないわ。総理が出てきて『こんなに買えちゃうぞ!』と煽るバージョンもあるのよ。子供達、楽しみにしてるわよ〜」
「げ、やられた…」
 夕陽が反射するブラウン管で、シゲキンの目がキラリと光った。




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