つとむューニッキ(はてなダイアリー版)

つとむューのニッキです。

お父さんのススリ泣き

隣の部屋から、お父さんのススリ泣く声が聞こえる。寝る前に、ひどいことを言ってしまった・・・。だって、高校受験が近いというのに、風呂上りのパンツ姿で「週末、温泉でも行かないか」なんて、のんきなことを言うんだもん。私、頭に来ちゃった。だからつい言ってしまったの、「お父さんなんて不潔!だいっキライ!あっち行って!!」って。


今晩も、隣の部屋からススリ泣きが聞こえる。昨日のことなのに、よっぽどこたえたのかなあ・・・。でも、今日のはちょっと長い。なぜだろうと思い、そっと隣の部屋を覗いてみる・・・。お父さんは、古ぼけた何かを見つめていた。


それは、一枚の絵葉書だった。そこに描かれている風景には見覚えがある。青い空、白い砂浜・・・それは毎年、家族で出かけていた南の島の風景だ。そうだ、5年前までは、みんなで楽しい夏休みを過ごしていたんだっけ。あんな事件が起こるまでは・・・


5年前、あの島での家族旅行は、突然終わりを告げられた。火山活動が急に活発化して、全島民が避難することになったのだ。私達は夜中に起こされ、荷物をまとめて慌しく船に乗り込んだ。そういえばあの絵葉書は、避難する日の夕方、島のポストに私が入れたんだっけ。5年ぶりに帰島が実現したというニュースを最近聞いたけど、それまであの絵葉書は、ずっとあのポストに置いてきぼりだったんだ。


あの事件以来、夏の家族旅行は中止になってしまった。それは私が、あの島じゃなきゃいや、とダダをこねたから。そうしているうちに私は中学生になり、お父さんとの距離もだんだん離れていってしまった。5年ぶりに届けられた絵葉書は、心の中のかさぶたを突然はがされたような、そんな気持ちにさせた。


春になって受験が無事に終わったら、ちょっと素直になってみよう。そして、あの絵葉書に書いた言葉を、勇気を出して言ってみよう・・・、パパ、また連れて行ってね・・・と。




へちま亭文章塾 第9回お題「殺し文句」投稿作品