つとむューニッキ(はてなダイアリー版)

つとむューのニッキです。

崩壊

カシャッ


 駅からの夜道を急ぐ涼木理子は、足を止めて耳を澄ました。街灯に群がる虫の羽音がパタパタと住宅街に響く。
 確かに変な音がしたのに…
 額にじっと汗が浮かぶ。蒸し暑い梅雨の終わりは、理子の一番嫌いな季節。早くマンションに帰って、冷房の効いた部屋でビールを楽しみたい。まとわりつくスカートと高いヒールに辟易していた理子は、新たな邪魔者に眉をひそめた。
 盗撮されてる?
 理子は後ずさりながら紫陽花の生垣の陰に身を寄せた。が、その時…


カシャッ


 えっ、また?
 理子は携帯電話を取り出す。
「もしもし、美和?」
「どうした理子、情けない声出しちゃって」
 美和の明るい声が、ぽっと理子の心を照らした。
「今、家に帰る途中なんだけどさ、盗撮されてるみたいなのよ」
「盗撮?」
「それでね、暗いところに隠れてるんだけど、それでも撮られちゃうの」
「もしかして理子、白い服着てない?」
「よくわかるね。白のワンピだけど」
「だったらきっとそれ、赤外線カメラだよ…」
 赤外線カメラを使うと白い服が透けてしまう。そんな美和の説明に、理子は背筋が寒くなった。
「隙を見てダッシュで逃げるのよ」
「無理だよ、今日のサンダル、ヒール高くって」
「バカね、そんなの脱いじゃえばいいでしょ」
 確かに美和の言う通りだ。サンダルを脱ごうと理子が一歩踏み出したその時…


カシャリ


 もういい加減にして!
 素足になった理子は脱兎のごとく走り出した。次の角を曲がるとマンションが見えてくる。あと百メートル。理子は走りながらバッグから鍵を取り出すと、入り口で素早くロックを解除してエレベータホールに駆け込んだ。ここまで来れば誰も追って来れないはず。ほっとした理子は、履こうとしたサンダルからヌメリとした異様な感触がすることに気がついた。


キャーァァァッ!


 驚いてサンダルから手を離す。
 転がり落ちたサンダルには、親指くらいの太さのカタツムリが三匹、ヒールに串刺のまま悲しそうに理子を見つめていた。




こころのダンス文章塾 第18回お題「夏(恐怖)」投稿作品