胸を張って風を切ろう

そんなこと出来なくたって問題なく生きていける。
そんな特技って、何かないかな？
そうだ、震災の影響で乗ることが多くなった自転車。
その手放し運転が、オレの密かな特技だったりする。

確かにこれは何も役に立たない。
できたとしても自分が満足するだけ。
しかし大学時代、オレは必死に練習した。
なにが目的だったのかはよくわからない。

月夜のキャンパスに、オレは独り自転車で乗り込む。
人の少ない深夜なら、どんな狭い路地でも手放し放題。
あはははは、ここはオレの世界だ。手放しで何処でも行ける、何でもできる！
調子に乗ったオレは、足でブレーキをかけようとして派手にすっコケた。

懲りないオレは、就職してからも特訓を続けた。
目指すは、職場から自宅アパートまでの完全手放し制覇。
途中に信号があるため、深夜しか達成の見込みはない。
一年くらいチャレンジを続けて、ようやく達成した。

そして今回の震災。
再び自転車のハンドルを握る機会、いやハンドルから手を離す機会が訪れた。
恐る恐る体を起こすと――今まで気付かなかった景色が目に飛び込んでくる。
民家の庭に咲くしだれ桜、新緑が眩しい公園の並木・・・
そうだった、そうだった。
手放し運転はその姿勢の良さゆえに、圧倒的に景色がいいのだ。
忘れかけていた何かを取り戻したような、そんな今年の春だった。

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はてなダイアリー　今週のお題「私のちょっとした特技」