つとむューニッキ(はてなダイアリー版)

つとむューのニッキです。

帰望のカーネーション

tsutomyu2012-05-13

ウーウーとうめき声をあげながら、祖母がカーネーションを握りしめる。
脳梗塞のため、祖母は一週間前から右手以外の自由を奪われた。
お見舞いとして、病室に色をそえるカーネーション
その濃いピンクの花弁が、シワだらけの掌の中で揺れていた。


もともと祖母は、脳梗塞を患っていた。
そのため、この二、三年は、ずっと介護施設暮らし。
車椅子に乗っていたものの、昨夏は普通に会話を交わしていた。
しかし今回、その言葉さえもが奪われてしまった。


慌てて駆け付けた母が、祖母の看病をする。
何十年ぶりに訪れた母娘の濃密な時の中で、祖母は母に要望した。
もう何年も帰ることの出来ない自宅の庭の花を見てみたいと。
だからオレは、母と一緒に車を走らせた。


田舎の山裾にひっそりと佇む祖母の家。
今は滅多に開けられることのない居間のサッシの前に、その花は咲いていた。
まるで、母に摘まれるために。
そして、母からその母へと贈られるために。


「お母さん、カーネーションが咲いとったよ」
その花を見たとたん、祖母の顔がくしゃくしゃに崩れる。
それはそれは嬉しかったのだろう。
伸ばした右手に置かれたその花を、祖母はぎゅっと握りしめた。


母の日といえばカーネーション
なぜそんな風習ができたのか、オレにはわからない。
しかし。
母の日になると庭に咲く一番綺麗な花。
それがカーネーションであることは、一生忘れないだろう。




はてなダイアリー 今週のお題「母の日に感謝を込めて」