頼むから文化祭も中継してくれよ
「ちょっとあの車、屋根にアンテナが付いていませんか?」
前を走る車が気になったオレは、ハンドルを握る先輩に声をかける。
「ホントだ。でも中継車ならテレビ局名が書いてあるんじゃない?」
真っ白なその車には、どこにも局名は書かれていなかった。
「ということは・・・」
もしかして秘密警察の特殊工作車両?
オレの推測に、先輩は「まさか」と首を傾げた。
ここは出張先の山の中。
オレ達が車を走らせている一本道の先に、宿は一軒しかない。
もしかしたら、あの車と行き先は同じなんじゃないか?
オレの心は期待半分、不安半分で一杯になった。
結局その車は、ローカル局の中継車だった。
中継車ということは、生放送。そして行き先も同じ。
ということで、オレ達はそんな珍しい現場に遭遇することとなった。
客室でテレビを見ながら、フロントでの撮影の様子を伺う。
驚いたのは、生放送と言いながら五秒くらい遅れて放映されること。
「なんだ、五秒後中継じゃねえか」
仮にオレが大声を出して客室を飛び出しても、放映されることはきっとない。
「こんなことがあったんだよ」
カミさんに報告しても、「あ、そう」と冷ややかな反応が返って来るに違いない。
なぜなら、今年も娘の文化祭に行けなかったから。
「この時期は必ず出張があるんだよ」
「せっかく娘がピアノを弾くっていうのに?」
だから娘の文化祭の思い出は、見れなかった悔しさしかオレにはない。
はてなダイアリー 今週のお題「文化祭や学園祭の思い出」