上り銚子ゆき
「あーあ・・・」
お望みの高級とんかつ屋に入ったというのに、娘はため息ばかり。
「ダメだったのか?」
「最後の英語が、ちょっとね・・・」
今日は私立高校の受験だった。
「英語の試験というのはな、単語とか熟語とかわかるところから解くんだぞ」
急に父親風を吹かせたオレに、娘はするどい視線を向ける。
「わかってるよ。長文が三つもあって、その二問目が時間切れだったんだよ」
「ちょっと見せてみろよ」
娘はバッグの中から問題用紙を取り出した。
なんだこの問題!?
民主党と自民党?
アメリカやイギリスの議会についても言及している内容だぞ。
おいおい、今どきの高校入試ってこんな英文問題が出るのかよ。
内容がさっぱり頭に入って来ず、オレの頬に冷や汗が垂れてくる。
「た、確かに難しいな、これ」
オレは平静を装いながら、なんとか最後の一文まで視線を流す。
「でしょ!?」
娘の言葉には、試験に対する軽い怒りが込められていた。
「高校側も差別化しようと必死なんだよ。英語の得意な生徒が欲しくて」
すると娘は、「なんで?」という顔でオレを見る。
「英語を学ぶために高校があるんだから、できる生徒を選んでも意味ないじゃん」
「いや、私立高校だから宣伝になるんだよ、きっと。野球なんかがいい例だろ?」
「そうかなぁ」と娘はまだ不満そう。
でも待てよ。
英語は試験の最後の科目だったって言ってたよな。
それって、高校側も意図して難しくしてるってことじゃないか?
だったら解けなくて当然なのかもしれないぞ。
受ける側では気付かない、実施者側からの視点。
そんなものしか与えることができないダメ親だが、娘もだんだんと納得してくれる。
「そうだよね。あんな問題が朝一だったら、皆ヘコんじゃうもんね」
やっと娘が笑ってくれた。
そんな娘への贈りものは、「犬吠」発「銚子」ゆきの切符。
『上り銚子』という、受験生にはありがたい縁起担ぎだ。
犬吠が銚子のはずれにあることは内緒だけど・・・
はてなダイアリー 今週のお題「受験」