つとむューニッキ(はてなダイアリー版)

つとむューのニッキです。

支払うお金の半分はその人の笑顔のためだったりする

「さあ、この機械の上に乗ってごらん」
店員の指示に従って息子が白い台に乗る。足のサイズや重心を測る装置だ。
「君に合うスパイクは、このメーカーのこのシリーズだね」
機械を操作する店員の言葉に、息子は夢中で耳を傾けていた。


ここはサッカー専門のスポーツ店。
的確なアドバイスを店員から貰えるということで人気がある。
「じゃあ、このスパイクを履いてごらん」
店員が持ってきたスパイクに、息子は顔を曇らせた。


オレはその理由を知っている。
だって、オレと一緒に買い物をすると、いつもそんな顔をするからだ。
――友達が同じスパイクを履いているから。
そんなつまらない理由を、オレは息子に代わって店員に打ち明けた。


「友達と被らないことも大切だけど、足に合うことの方を優先してほしいな」
オレが何度も息子に言い聞かせ、一度も聞き入れてくれなかったセリフ。
「僕、このスパイクが欲しい」
おいおい、そんなに素直に頷くなよと、オレは少し悲しくなる。


そういえば昔、似たようなことがあった。
かみさんと結婚する前、婚約指輪を選んでいた時のことだ。
「私、この指輪がいい!」
満面の笑みで指にはめるそのダイヤは、妖しい相性診断付きの指輪だった。


普通の貴金属店だったら、同じ値段で倍の大きさのダイヤが買えるのに・・・
オレの言葉も、そのダイヤに魅せられたかみさんの耳には入らない。
困り果てたオレは、鉱物好きの友人に相談する。
そして彼の言葉が、オレの考えを変えたのだった。


「ダイヤってね、質に入れても二束三文なんだよ」
つまり倍の大きさのダイヤを買っても、実質はあまり変わらないということ。
「だったら、笑顔が多い方がいいんじゃない?」
オレは気が付いた。払うお金は石に対してじゃなく、大切な人の喜びのためなのだと。


「それでさ、妖しい機械を使って、スパイクとの相性診断をやったんだよ」
オレの報告に、「昔そんなことがあったね」と、かみさんが笑う。
今もそばにある素敵な笑顔に、あの指輪を選んでよかったとオレは思う。
「えー、そんな診断してないよ〜」と、息子だけが目をパチクリさせていた。




はてなダイアリー 今週のお題「選んでよかったもの」